うろおぼえserial experiments lain『01 WEIRD』の第一稿の実験的公開
実は、最近、私の小説ブログ『
病むに病まれてビラの裏』用の小説を書いておりました。いつもは、推敲とかなしの一発書きがほとんどだったのですが、今回は、推敲を行った関係で、最終バージョンまで5バージョンが出来ました。
と言っても、文章の調整とか、言葉のあれこれを変更しただけで、大筋は全く変わっておりません。タイトルの通り、原作がある小説なので、流れとかは基本的に変わらないはずです。
普通は、最終バージョンだけ公開すればよさそうなものなのですが、折角ですから、第一稿と、第三稿と、第五稿(最終バージョン)を三つのブログで公開してみる事にしました。全部読み比べてくれる人は、稀有な存在だと思いますけど、この第一稿には、最終的に省いていった言葉も、全部入っております。私は、書いた本人なので体感出来ないのですが、三つ読んでみたら、『どんな感じに推敲が行われたか』が分かるかも知れません。
他のブログの記事は以下です。
うろおぼえserial experiments lain『01 WEIRD』の第三稿の実験的公開うろおぼえserial experiments lain『01 WEIRD』←完成稿
という訳で、記事後半が小説の本文です。元アニメを知らない人には、なんのこっちゃさっぱりかも知れませんし、元アニメを知っている人には、怒られそうで怖いです。
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-私はここにいたくないの。
四方田千砂(よもだ ちさ)の目に映る世界は空虚だった。眼下に広がる繁華街のネオンも、雑踏の音も、車の音も、彼女にとって既に意味をなさないモノだった。それは、彼女が空虚だからこそ、そう感じられたのかも知れないが、彼女をそうさせたのも、その空虚な世界だった。
-ここにいなくても、私は繋がってられる。
少女は、眼鏡を外した。彼女にとって、お下げ髪とならんで、彼女を特徴付けるモノだったが、彼女にとってそれは、もうどうでもよい事だった。彼女にとって、補正された世界も、補正された世界も、どちらも同じくらいに意味のないモノになってしまっていた。もっとも、眼鏡が持つイメージ、周囲が彼女に抱いていたイメージを捨て去ってしまいたいという少女らしい願いが、そこにあったのかも知れない。せめて、最期は…。
-なぜみんなここにいるのだろう?肉体なんて、もう意味がないのに…。
少女は、先ず、眼鏡を先に落とした。眼鏡は、壁にぶつかり、そして、地面にくしゃりと落ちた。そして、既に乗り越えた柵に手をかけ、身体を反らせ、手を伸ばし、飛び立つ姿勢になる。
-私は、ここにいなくても、繋がってられる。
繁華街の路地裏。援助交際とおぼしき中年の男と、化粧をし、ゴテゴテの衣装に身を包んでいるが女子高生のカップルが唇を貪りあっている。双方が求めるモノは、確実に違うわけだが、それらが交わる先が、唇なのだろうか。突然、ガシャンという音がして、バーの電飾の看板が砕け、倒れる。そこには、一人の少女が横たわり、徐々に血だまりが広がっていく。女子高生が短い悲鳴をあげる。徐々に路地裏は騒々しくなる。その上では、ネオンがバチバチっと火花をあげ、柱上変圧器は、特有のうねり音を出していた。
* * *
がちゃりと扉が開く。初冬、朝にしては強くそして冷たい光は、背景、景色を白く飛ばし、その中に岩倉玲音(いわくら れいん)が現れる。玲音の世界もまた、空虚だった。しかし、玲音は、それを感じていなかったし、普段の何気ない風景というものは、意識の中に印象として残らないのかも知れない。いつもと変わらない、朝、玲音は、これから学校に向かう。
認識の問題だが、世界の姿は、目に見えている姿なのだろうか。人間の視力に関して言えば、可視光線が形作る世界が、認識している世界ということになるが、例えば、電磁波は、もう人間の生活には切っても切れないモノになっているし、そこかしこに存在している。太陽の光が作る影があるが、その影には、色々な影が重なりあい、古くは、それは「魔」と表現されていたものかも知れない。
その朝の世界を、その中を玲音は歩いて行く。
通学の電車の中。車内には、通勤中の疲れたサラリーマンが、これから仕事に行くというのに、うなだれて、僅かな睡眠を貪っている。同じ時刻の電車の中は、その時間帯のいつもの人という感じになっている。各々が、携帯電話をいじったり、各々の世界にいる。そんな中、玲音は、ドアの前に立ち窓の外を眺めている。
住宅地や、特に線路の傍では、空を覆うように張り巡らされた電線の周囲には、電流が導体を流れることで発生する磁界が、それをほとんど耳にする事はないが、うんうんとうねりをあげている。通信線の中には、信号という形で情報が流れている。それは、例えば、NAVIのモニタに意味のある情報として再生されるモノだ。しかし、電線の中を信号として流れているなら、その声は、そこに存在している筈である。
本人がどう知覚しているかは分からない。知覚してないかも知れないが、中学2年生の少女の感受性に、そういう目に見えない世界の要素も、何かしらの影響を与えているのかも知れない。
-…うるさいな。
近くにいた人は、少しだけぎょっとして、玲音の方を見るが、それが独り言だと分かると、また、各々の世界に戻っていった。
玲音は、中学校に着くと校門の前で歩みを止めた。強い日差しが目に入り、目を細めると、そこは影絵の世界となった。昇降口に向かう生徒達の姿が、黒く、輪郭のぼやけた影となり、そこに確かに存在しているはずなのに、その存在は、何か、希薄な、あやふやなモノに感じられた。さらに、目を細めても、影絵の世界に変化はなかった。
教室に入り、玲音が自分の席に着くと、一人の女生徒が泣き声が聞こえた。そして、二人の女生徒がそれを慰めていた。玲音が通う中学校は女子中学校のために、生徒は女生徒しかいない。泣いている生徒は、加藤樹莉(かとう じゅり)、慰めている生徒は、瑞城ありす(みずき ありす)と山本麗華(やまもと れいか)で、玲音が学校で話すか数少ない同級生である。泣き声が耳に届き、そちらを見ると、ありすが「おはよう。レイン。」と声をかけてきた。樹莉の事を気遣ってか、声のトーンは抑えられていた。
-ジュリちゃん…どうしたの?
-その…届いたんだって、メールが…。
-メール?
-ヨモダチサからメールが届いたのよぅ。うわあぁぁん。
-チサちゃん?
-…その、B組のチサちゃんって、先週、自殺したのよね。うん。
-それなのに、その死んだヨモダチサからメールが届くってのが、流行っているんだって。イタズラだってぇ、そんなの。
-でも、でも、でもぉ…。
-レインのところには…届いてないよね?メール。
-メール、見ないから…。
-えー!?ダメだよぅ、レインも今時の女の子なんだから、メールの一つくらい見ないとぉ。時代に取り残されちゃうよ。
-…。
授業中、玲音は、ぼーっと黒板を眺めていた。授業内容は情報科学らしい。条件付け文章や、ベン図、簡単な命令語が板書されている。知っている女の子が自殺していた。その事は、少なからず玲音に影響を与えたはずだが、感情を表に出す事が不得手なのか、表情からそれを読み取ることは難しい。
玲音は、指先に違和感を感じ、ふと右手をみると、5本の指先にぷつりと穴が開いた。そしてその穴から、しゅーっと煙が噴出してきた。痛みはない。いや、煙が噴出していくことは分かるのだが、手に、その感覚は全くない。煙は、止まることなく噴出し続け、教室は、すっかりと霧に覆われてしまった。
また、違う世界が姿を現した。視界は霧に遮られ、黒板の前に立つ先生も、教室にいる同級生達も、また、影絵になってしまった。その中で、チョークが黒板に削られるカリカリという音だけが響いていた。その音は、徐々に大きくなっていった。
* * *
がちゃりと扉が開き、玲音が玄関に入ってくる。靴を脱ぎ、夕日が差すリビングを通り抜ける。両親は共働きでまだ帰宅しておらず、高校生の姉もまだ家に帰っていない。階段を上り、自分の部屋に入り、ベッドの上に座った。窓には観葉植物といくつかの縫い包みが並んでいる。部屋の隅には学習机があるが、あまり使っていない。物が積み重なり、物置のようになっている。そこには、昔、父親に買ってもらった赤色のNAVIも置いてある。
玲音は、学校でのありすの言葉を思い出し、机の前に座った。NAVIに引っ掛けてあったクマの帽子をかぶり、久しぶりにNAVIを起動する。起動画面になり、IDを要求される。父親が設定してくれた『lain』というIDを、慣れない手つきで入力する。次に画面には『ナマエ、イッテ』と表示される。音声認識タイプのパスワードだ。
-レイン。
音声の分析が始まり、カリカリという音が鳴る。画面には『スコシ、マツ』と表示されている。ゲージが満たされると分析は終了し、OSが起動した。
-ハロー。レイン。ヒサシブリ。
-ハロー。ナビ。
-メール、イッケン。
メールソフトが起動し、受信ボックスが表示され、最新のメールが表示される。件名は『レインへ』。差出人は『ヨモダチサ』。NAVIのOSの機械的な音声で読み上げられる。そのまま、次はメッセージが読み上げられる。
-レイン。一度だけ一緒に帰ったよね。
-私はここにいたくないの。
-私は、ここにいなくても、繋がってられる。
To be continued...
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