感想:東野圭吾「むかし僕が死んだ家」が無茶苦茶面白い!(乱れ蝙蝠の365書8)
はじめに(ナカノ実験室)。
今回も友人の乱れ蝙蝠からの寄稿です。
乱れ蝙蝠の365書8東野圭吾「むかし僕が死んだ家」
「誰もがそういう、むかし自分が死んだ家を持っているのではないか。ただそこに横たわっているに違いない、自分自身の死体に出会いたくなくて、気づかないふりをしているだけで、」
ご存知ベストセラー作家東野圭吾の初期の作品。
まあ、有名作家だからプロフィールを書くのは野暮かもしれませんが・・。
1958年、大阪府生まれ。大学卒業後、エンジニアとして勤務しながら小説を執筆。85年、「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。この作品は犯人の殺人の動機が物議を醸しました。東野氏も斬新な動機を書きたかったといっているとおり、非常に独創的なものになりました。賛否両論ありましたが、私は大いにありだと思いました。ある意味かなり理不尽な動機ではありますが、共感できるものがあった。
デビュー後、数多くの作品を発表するが、なかなかベストセラーが出ず、苦労した時期が続いたが、99年「秘密」が日本推理作家協会賞受賞。その後は数多くの作品がヒットし、一躍人気作家となった訳です。映像化された作品が無茶苦茶多いのも彼の作品の特徴です。
ただ、彼の代表作の「白夜行」「容疑者Xの献身」が面白くなかったというか、内容的に好きになれなかったので、あまり私は東野作品には向いてないかなと思った事があった。しかし、「手紙」や「怪笑小説」等のブラックユーモア短編集はかなりツボにはまったからなあ。東野圭吾作品にたいしてはかなり好き嫌いがはっきり別れてしまう。
で、この作品はというと
無茶苦茶面白かった!
東野圭吾の実力ここにありという感じだ。完璧ですね。私は東野作品は初期作品の方が好きなのかもしれない。
久しぶりに再開した7年前に別れた恋人、倉橋沙也加からある頼み事をされた主人公。それは「私には幼少期の記憶が全く無い。その記憶を取り戻すため、自分の過去に何があったか知るために、死んだ父が残した謎の鍵と地図が指し示す場所に一緒に行って欲しい。」という物だった。
その地図が指し示すのは、山の中にひっそりと立つ白い無人の洋館だった。果たしてこの洋館にはどんな秘密が待ち受けているのか、そしてヒロイン沙也加の過去には何があったのか・・。
まず、登場人物が昔恋愛関係にあった二人だけ。そして舞台はほぼこの洋館の内部と一幕物のように設定が絞られている。しかしそれだけに緊張感が漂い、二人が無人の洋館の中を探索し、様々な謎めいた物を見つけ、それをヒントに少しずつこの洋館に隠された謎を解いていく展開はかなりハラハラした。もちろん幽霊とかそんなものは出て来ないが、ホラー小説の雰囲気も漂う。
そして明かされた洋館の秘密、沙也加の過去とは・・。最初は不気味に気持ち悪く思えた。しかし真実が明かされるにつれ、なんともやるせない気持ちになり読後には切なさが残った。
以下、ネタバレ。核心的な事は書いてないけど未読の方は注意。
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テーマは「幼児虐待」である。ヒロイン、倉橋沙也加は自分の子供を愛することが出来ず虐待してしまい苦しみ、自分は欠陥人間ではないかと思っていた。それで過去に何があったのか痛切に知ろうとしたのだ。
電話で相談してくる者のほとんどが虐待している母親本人である、そんな母親のほとんどが育児書に盲目的に依存している・・等幼児虐待に関連して興味深い事が書かれている。
この洋館にもかつて幼児虐待に関連する忌まわしい過去、悲劇的な事件があった。根底には
「子供にとって本当に必要なのは、血の濃さ(本当の親かどうか)なのか、愛情の深さなのか」
という重いテーマがある。
沙也加にとっても明かされた過去、思い出した過去はあまりにも衝撃的、悲劇的なものであったが、それでも彼女は、物語のラストで自分は自分以外の何者ではないと信じて生きていく事を決意した。救いがあるラストで良かった。
どんな残酷なものでも人はやはり真実でしか救われないのかもしれない。このフレーズは杉下右京さんの受け売りだけど。
結局、二人はお互いにまだ惹かれあっている事を自覚しながらも別れたままになってしまったが、沙也加は過去と決別して生きていこうとしたのだからしかたないのかもしれない。二人が惹かれあった訳には私も痛く共感出来たので、また二人にはくっついて欲しかったがしかたないか。ちょっと私も昔の事を思い出してしまった。
悲しい歪んだ親子関係、お互いにまだ惹かれあいながらも過去と決別するために別れた元恋人達、と読後非常にやるせない気持ちに襲われた。人は誰しもがどこかに過去の自分を置き忘れながら生きている―
しかし、あちこちに伏線はあったのに全然気づかなかったな。俺は探偵にはなれないな。
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・向日葵の咲かない夏(道尾秀介)。
とにかくすごい小説だった。この小説、賛否両論がものすごく分かれている小説で、Amazonのレビュー見ても
「気持ち悪い」「陰惨すぎ」「この作者の小説は二度と読まない」「持っていると呪われそう」「ラストがそんなのあり?という感じ」と低評価(というか嫌悪)する人と絶賛する人に分かれる。
向日葵の咲かない夏(道尾秀介)の感想・書評~乱れ蝙蝠の365書6[ネタバレ注意]。
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毎回毎回、編集部の選んだ3冊、北上次郎推薦の3冊、大森望推薦の3冊、を前もって読んでおき、その感想を言い合い書評しあい、二人がそれぞれ6段階評価します。
感想書評・読むのが怖い!Z 日本一わがままなブックガイド(北上次郎×大森望)・乱れ蝙蝠の365書7。
おわりに(ナカノ実験室)。
「容疑者Xの献身」で思い出しましたが、実は私映画版のエキストラで出演しているはずです。本編を観てないので、私が映っていたかどうかは分からないのですが…。親子の愛情などに関しては、世相のせいか時々考えることがあります。
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