感想・書評「愚行録」貫井徳郎・ネタバレ注意!事件についてインタビューに答えている様々な人の証言で成り立っている(乱れ蝙蝠の365書12)
はじめに(ナカノ実験室)。
今回も友人の乱れ蝙蝠からの寄稿です。
乱れ蝙蝠の365書12 「愚行録」貫井徳郎
「人生って、どうしてこんなにうまくいかないんだろうね。人間は馬鹿だから、男も女もみんな馬鹿だから、愚かなことばっかりして生きていくものなのかな。あたしも愚かだったってこと?精一杯生きてきたけど、それも全部愚かなことなのかな。ねえお兄ちゃん、どう思う?答えてよ。ねえ、お兄ちゃん。」
貫井徳郎さんは1968年生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を経て、93年に「慟哭」でデビュー。読後感が最悪な、少年犯罪や犯罪被害者の遺族の復讐など重いテーマを扱う作風で有名。
ちなみに奥さんの加納朋子さんも作家。ファンタジー性溢れる心温まる作風で有名。夫婦で実に対照的な作風である。私はどっちとも読んでバランスとっています。
東京の閑静な住宅地で、幸せを絵に描いたような一家が全員惨殺される事件がおきた。この小説はその事件についてインタビューに答えている様々な人の証言で成り立っている。そしてその合間合間に、親から虐待をうけていたと思われる女性の、兄に話しかけている言葉がところどころ挿入される。いったいこの女性は誰なのか?事件とどういう関係があるのか?
地の文が一切無い小説で、似たような形式の小説に恩田陸の「Q&A」がある。
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被害者に関わりがあった様々な人物達の被害者に関する証言が重なっていく内に、理想的な家族に見えていた両親の生々しい裏の顔が語られ、インタビュア―達は勝手な憶測や自己判断で被害者の両親達を嬉々として語る。人間の嫌な部分や汚い部分やせこい部分がぎっしり詰まった小説で読んでいて胸やけがするような気分だった。
証言者によって被害者両親の印象はころころ変わる。果たしてどのような人物なのか。妻は計算高い人物だったのかそれとも鈍感な人物だったのか。夫は計算高い冷徹な人物なのか頼りない人物なのか。インタビュアー達は勝手な思い込みや自分を美化する為、自分の理想を押し付ける為、それぞれの勝手なイメージで被害者を語る。その無意識のズルさといった物がどんどん私の心の底にたまっていく感じでヘドが出そうな気分だった。
解説にある通り、まさしく
「他人を評価することは自分を評価すること」
なのだ。
ただ、別に彼らは悪人ではない。愚かな事が悪ならば人間はみんな悪人だ。それなのに一線をこえてわかりやすい悪をした人間だけが罰せられる。冒頭にあげた一文は私の心に深く残った。愚かな人間を嘲笑するのは簡単だ。しかし愚かでない人生を歩む人間なんて世の中にいるのか?不器用に愚かに生きるしかない人間を罰したり嘲笑したりする権利が世の中の誰にあるのか?事件の真相もあいまって読後はやりきれない気分で一杯だった。
ただ、毒舌書評家の豊崎由美さんがこの作品が直木賞候補になった時(受賞には至らず)、
「こざかしい薄っぺらな人間がうろついてるだけの小説」
「簡単に分析できる単純な物語」
「小説である必要が無い」
とクソミソにけなしていたが、確かにこんな話、「新潮45」
とかのノンフィクションでいくらでも読めるよなあという気がする。あまりにもリアリティ溢れ真面目すぎる作品故に
「事実は小説よりも奇なり」
という言葉では無いが、事実をそのまんま書いただけ、小説として成立している意味が無いと思う。小説として書くなら 何かもっと+が無いと・・
みたいな気分になったのは確かだ。
うーん、小説というのは難しい。
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豊崎由美さんは1961年生まれ。ライター、ブックレビュアー (書評家と呼ばれるのは好きでは無いようです。)文芸誌や女性誌で書評を連載。ファンも、またアンチも多い書評家の一人だが、一切遠慮しない歯に絹着せぬ「猛毒舌」書評が有名で、相手が大物作家だろうが新人だろうが一切容赦せずバッサバッサ斬りまくる。
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おわりに(ナカノ実験室)。
お久しぶりの寄稿でした。全然、知らない作品だったので、興味深かったです。
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